【ロンドン=中島裕介】英国のトラス首相は20日、「保守党から選出された任務を果たすことができない」と辞任を表明した。9月下旬に打ち出した経済政策が金融市場を混乱させ、対策の大半は撤回に追い込まれた。辞任はその引責とみられる。9月6日の政権発足から2カ月に及ばない異例の短期政権となった。
首相官邸で党首の不信任投票や党首選を運営する与党・保守党の「1922年委員会」の幹部と会談後に表明した。支持率が1桁に落ち込み、政権の維持は困難と判断した。すでにチャールズ国王に党首辞任を伝達したという。
保守党は後任首相を決める党首選の準備に入る。ジョンソン前首相やスナク元財務相の名前が挙がるものの、衆目の一致した後任候補はおらず、政治の混乱が続く可能性がある。
後任首相の決定時期次第でトラス氏は英史上、最短任期の首相となる。英政府によると、過去最短は在任約4カ月で病死した1827年のカニング首相だという。
トラス氏は相次ぐ不祥事で辞任したジョンソン氏の後を継いだ。故サッチャー氏、メイ氏に続く英史上3人目の女性首相だった。7~9月に行われた首相を選ぶ与党・保守党の党首選では、減税を軸とする成長戦略を前面に掲げ、ジョンソン派の議員や党員の支持を集めて勝利した。
ただ9月下旬に打ち出した大規模減税を含む経済対策が財政悪化の懸念を招き、英通貨ポンドと英国債価格が急落するなど市場の混乱を招いた。10月中旬以降、財務相を更迭し大半の減税策を撤回するなど目玉政策の方針転換を強いられ、政権の求心力は急速に低下した。19日には内相も辞任し、保守党内からも退陣を求める声がいっそう強まっていた。
トラス氏は石油メジャー勤務などを経て2010年に下院議員初当選、14年には環境相に抜てきされ、国際貿易相や外相などを歴任した。
英国はジョンソン前首相が辞任を表明した7月以降、外交面で国際的な影響力も薄れている。ウクライナ危機が続くなかで反ロシアの先頭に立つはずの英国政治の混乱は、西側諸国の結束にも悪影響を与えかねない。
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