さいたま市内の閑静な住宅街。田畑も点在するのどかな一角に、京都アニメーション放火殺人事件を起こした青葉真司被告(45)が、生活保護を受けながら暮らしていた2階建てのアパートがある。
コンビニ強盗事件で服役し、刑務所で統合失調症と診断された被告は、出所後にメンタルクリニックに通院しながら訪問介護を受けていた。
しかし頻繁に服薬を中断、平成30年5月には自宅を訪ねた看護師に包丁を持ってすごんだ。「つきまとうのはやめろ」
妄想の症状は悪化し、翌年3月にはスマートフォンを解約。訪問介護も無視し、自ら治療を絶った。京アニの裁判で提出された証拠によれば、ケースワーカーはこの時点で「他害の恐れあり」と危惧していた。
「自分の人生を振り返ると、人とのつながりが完全になくなったときに犯罪行為に走るという共通点がある」(被告の公判供述)
孤立した被告はこの年の6月、JR大宮駅前で無差別殺人を計画した。東京・秋葉原で無差別殺傷事件を起こした加藤智大元死刑囚=死刑執行当時(39)=に共感、自身と重ね合わせていた。
包丁6本を買って駅前に向かったが、人通りはまばらで、大した犯行にならないと断念。改めて許せない相手を考え、自作小説を落選させた京アニが残ったという。
7月14日、被告はアパートで騒音トラブルを起こし、隣人の胸ぐらをつかんで脅した。「こっちは余裕ねえんだよ、殺すぞ」。翌15日、京都へ向かう新幹線に乗った。
生存率5%以下
京アニ事件から2日後、全身やけどで瀕死(ひんし)状態だった被告は近畿大病院(大阪府大阪狭山市)に搬送された。そこで主治医を務めた上田敬博(たかひろ)氏(52)=現・鳥取大病院高度救命救急センター長=は「生存率5%以下」と見込まれる中、意識が戻るまで5回の手術を重ねた。約2カ月が経過した令和元年9月ごろ、被告は声が出せるまでに回復した。
「なぜ助けるのか」。被告は口癖のように聞いてきた。治療を受けるべき人間ではない、どうせ死刑だ…。投げやりに言う被告に、上田氏は裁判を受ける意義を説いた。「その自覚があるなら罰を受けるのは当然。そのためにある命だ」
昨年9月から始まった被告の公判。被害者参加した複数の遺族が、被告が救命されたことへの憤りを口にした。娘を奪われた父親は「被告には懸命な治療がなされ、この法廷で何時間も言いたいことを言っている。理不尽すぎる」と述べた。
一方、犠牲になった栗木亜美さん=事件当時(30)=の母親は「被告を生かしてくれた医師や医療関係者に感謝する。生きているから直接被告を見ることができ、娘の命を奪われた原因を知ることができる」と法廷で意見陳述。そのうえで被告に対し「極刑を望む」と結んだ。
被告は立って歩くことができず、大阪拘置所の職員からトイレや入浴時などに介護を受けている。今の環境について「『ありがとうございます』という言葉が生まれ、人に対して感謝する環境になる」と素直な気持ちを口にしている。
審理最終盤の昨年12月6日には、遺族や被害者に初めて「申し訳ございません」と謝罪の言葉を述べた。「一人一人に生活や家族があり、夢や、やりたいことがあった。もう少し犯行前に、想像する感情を持てたら」
「聞いているか!」
上田氏も、救命を良く思わない被害者がいることは分かっていた。それでも「死なせてはならない」と医師としてなすべきことをした。「九死に一生を得て被告は初めて命の重さを知った」と上田氏は言う。「『死に逃げ』させず法廷に立たせた。僕たちの医療行為は意味があったと思う」
公判で意見陳述をしたある京アニの男性社員は仲間を助けられなかった後悔と生き残った罪悪感を法廷で吐露した。
「聞いているか、青葉真司!」。そう叫び、被告に迫った。「あんたはまだ生きている。生きられなかった人がいる中で、あんたはまだ生きているんだよ。その意味を考えてください」
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