滋賀県日野町で1984年、酒店経営の女性(当時69歳)が殺害されて金庫が奪われた「日野町事件」で、大阪高裁(石川恭司裁判長)は27日、強盗殺人罪で無期懲役が確定し、服役中に75歳で病死した阪原弘(ひろむ)・元被告の裁判のやり直し(再審)を認めた大津地裁決定を支持し、検察側の即時抗告を棄却した。地裁決定から約4年半を経て、高裁も再び「死後再審」を認めた。
死刑や無期懲役の事件で、元被告の死後に再審開始が確定すれば戦後初めてになる。大阪高検が今後、高裁の判断を不服として最高裁に特別抗告するかどうかに焦点が移る。
事件では殺害を裏付ける直接証拠はなく、捜査段階の自白が決め手とされたが、元被告は公判で無罪を主張した。1審・大津地裁判決は自白の信用性を否定する一方、元被告が遺体や金庫の発見場所を捜査員に案内できたなどとする間接証拠から有罪と認定して無期懲役を言い渡した。
しかし、控訴審の大阪高裁は一転、「自白の根幹部分は信用できる」として無期懲役を維持。2000年に最高裁で確定した。元被告が再審請求中に病死したため、遺族が12年に再び再審を請求した。
第2次再審請求審では、検察側が多数の証拠を初めて開示。元被告が捜査員を案内した「引き当て捜査」の調書に添付された写真の中に、元被告が現場から帰る時のものが一部使われていたことが弁護側の分析で発覚した。
18年7月の地裁決定は、元被告は捜査員から断片的な情報提供を受け、無意識のまま誘導された可能性があると指摘。有罪判決の根拠になった自白の信用性を認めなかったほか、「取り調べ時に警察官から暴行や脅迫を受けた疑いがある」として任意性も否定した。
一方、検察側は高裁での即時抗告審で、引き当て捜査の写真について「意図的な不正ではない」と説明。取り調べ中の暴行や脅迫による自白の強要もなかったと反論していた。
高裁の石川裁判長らは22年3月の審理終結直前、酒店や遺体の発見場所を訪れる異例の現場検証も実施した。【山本康介】
日野町事件
滋賀県日野町で1984年12月、酒店経営の池元はつさん(当時69歳)が行方不明になり、約1カ月後に町内の草むらで遺体で見つかった。自宅にあった金庫も山林で発見された。88年、店の常連客だった阪原弘・元被告が強盗殺人容疑で県警に逮捕された。95年の1審・大津地裁判決は無期懲役を言い渡し、2000年に最高裁で確定した。元被告が再審請求したが06年に地裁で棄却。即時抗告審中の11年に病死で手続きが終了したため、遺族が翌12年に再び再審を請求した。
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