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「4割値下げ」発言から続く総務省の携帯電話業界への介入、結局何を変えたのか(佐野正弘) - Engadget 日本版

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前回は2019年のスマートフォン決済動向について振り返りましたが、筆者が追いかけている携帯電話業界で最も大きな出来事は、やはり10月の電気通信事業法改正だったといえるでしょう。民間企業である携帯電話業界の商習慣を、行政が規制によって根底から覆すというのは、色々な方面に影響を与え多くの議論を呼ぶものであったことは確かです。

ではそもそもなぜ法改正に至ったのか、法改正で何が変わったのかを振り返りつつ、改正法の影響が本格化する2020年以降、携帯電話市場はどうなっていくのかを改めて考えてみたいと思います。

法改正に至る流れを振り返るには、2018年にまでさかのぼる必要があるでしょう。同年8月に、菅義偉官房長官が「携帯電話料金は4割引き下げる余地がある」と発言したことを受ける形で、同年10月より総務省が有識者会議「モバイル市場の競争環境に関する研究会」を実施したことがその発端となっているのです。

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▲「モバイル市場の競争環境に関する研究会」は、事実上菅官房長官の「4割値下げ」発言を受ける形で実施された。筆者は2018年10月18日の第2回会合より、断続的に傍聴している

とはいえ行政が携帯電話の料金引き下げに言及したのは、菅官房長官が初めてではありません。2015年には安倍晋三首相が携帯電話の料金引き下げを検討するよう指示しており、それを受ける形で同様の有識者会議「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」が実施されたことがあります。

そしてこの会議での議論を受ける形で、従来一般的とされていた、スマートフォンを大幅に値下げして販売する「実質0円」販売の商習慣が禁止、スマートフォンの値引きに制限が課せられています。ですがそれでもなお、販売店が独自に大幅値引きをするなどしてスマートフォンの値引き販売競争が収束せず、携帯電話会社が通信料金の引き下げに及び腰の姿勢を取り続けていたことに、行政側が業を煮やしたといえるでしょう。

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▲2015年10月19日に実施された「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」の第1回会合。「モバイル市場の競争環境に関する研究会」と共通する構成員も多い

そして今回の有識者会議でも、行政側が通信料値下げ競争が進まない要因と指摘し続けてきた2つの商習慣をいかに根絶するかに、議論の大半を費やしたといって過言ではありません。その1つは通信料金を原資としてスマートフォンの値段を大幅に値引くこと。そしてもう1つは、携帯電話会社間の競争を停滞させる過度な契約の拘束、具体的には2年間の契約を前提に通信料金を値引く"2年縛り"や、4年間の割賦を前提に端末を購入し、2年後に返却して機種変更すると残債が免除される、"4年縛り"とも呼ばれた端末購入プログラムなどです。

実際2019年1月には、モバイル市場の競争環境に関する研究会と、ICTサービス安心・安全研究会 消費者保護ルールの検証に関するWGが共同で 「モバイルサービス等の適正化に向けた緊急提言」を取りまとめられているのですが、その中では料金プランをシンプルかつ分かりやすくするため、「通信料金と端末代金の完全分離」「行き過ぎた期間拘束の禁止」などが必要とされています。

そして3月には、この緊急提言を踏まえる形で電気通信事業法の改正案が閣議決定。通信料金から端末代金を値引くことができない、いわゆる"分離プラン"の導入が避けられない状況となってきました。そうしたことから携帯電話各社も分離プランの導入を積極化し、既に分離プランを導入しているKDD(au)とソフトバンクだけでなく、NTTドコモも4月に、分離プランを採用した新料金プラン「ギガホ」「ギガライト」を発表しています。

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▲法改正による分離プランの義務化を見越して各社は対応を進め、2019年6月にはNTTドコモも「ギガホ」「ギガライト」で分離プランの導入に至っている

ですが総務省側は、2つの商習慣の根絶を徹底するべく、より強引な姿勢を打ち出してきます。それが顕著に表れたのが、6月に実施された第12、13回の会合です。ここでは法改正を受け、規制の具体的な内容を定める「モバイル市場の競争促進に向けた制度整備」に関する議論が進められたのですが、そこで示された内容が余りに具体性を欠くものだったのです。

実際、この制度整備案では2年縛りの違約金上限が1000円、通信契約に紐づかない端末代の値引き上限が2万円までと、携帯電話会社からしてみれば非常に厳しい内容となっています。ですが前者は6000人にアンケート調査をした結果から設定されたものであり、論理的な根拠はどこにもありません。また後者は、現在の市場環境を前提に算出すると上限は3万円とされたにもかかわらず、なぜかそこから「1段階低い」2万円に設定された上、何をもって1段階とするのかという明確な根拠も示されなかったのです。

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▲2019年6月18日の第13回会合で提示された「モバイル市場の競争促進に向けた制度整備(案)」より。2年縛りの違約金上限1000円の根拠が、6000人へのアンケートによるものという非常に乏しい内容であったことが批判されている

こうした総務省の姿勢に、第13回会合では、普段は賛同を示すことが多い有識者からさえも疑問の声が多数挙がるという異例の事態となっていましたし、この案には携帯電話会社だけでなく、アップルやクアルコムなどからもパブリックコメントで反対意見が多く寄せられました。にもかかわらず、総務省は事実上この案をほぼ修正することなく押し通し、10月の法改正とともに「2年縛りの違約金1000円」「端末値引き2万円」といった規制が現実のものとなっています。

それでも携帯電話会社側は、2年縛りの緩和は受け入れたものの、端末値引きは改正法の隙を突く形で継続しようという姿勢を見せていました。それがKDDIの「アップグレードプログラムDX」(提供終了)やソフトバンクの「半額サポート+」(現・トクするサポート)といった新しい購入プログラムであり、従来の4年縛りの仕組みを、他社契約者も利用できる物販プログラムとして提供することで法改正後も提供できるようにしたものになります。

ですが携帯電話会社から割賦払いでスマートフォンを購入すると、100日間SIMロック解除できないという仕組みが存在していたことから、他社ユーザーが購入しても実質的に100日間はスマートフォンが利用できず、事実上自社ユーザーのみを対象としたプログラムとなっていたのです。そのため9月に実施された第17、18回会合ではこの件に関して有識者から怒りの声が飛び、結果として割賦払いでも頭金の支払いなどで支払い継続の意思が示された場合、即日SIMロック解除できるようルール変更がなされることとなりました。

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▲第18回会合におけるソフトバンク提出資料より。割賦払いで端末を購入すると100日間SIMロック解除できないルールの存在で、法改正を受け新たに提供開始した「半額サポート+」などが従来の"4年縛り"の温存につながるとして批判されることとなった

2007年の「モバイルビジネス研究会」以降、先の2つの商習慣を問題視した総務省の有識者会議は幾度となく実施されているのですが、今回、分離プランの義務化や端末値引き・2年縛りの規制が法で定められたことを受け、一連の議論は一区切りするものと考えられます。2007年当時の総務大臣は現在の菅官房長官であることを考えれば、菅氏にとっては10年以上越しの悲願達成といえるのかもしれません。

ですが先に示したように、議論不十分のまま行政側の意向を押し通すなど、今回はかなりの強引さが見えたのは事実。民間企業である携帯電話業界の商習慣を根底から覆すことを、そこまで強引に進めてしまうのには大きな疑問が残る、というのが正直な所です。

また一連の規制によって、本当に競争が加速して通信料金が本当に下がるのか?という点にも疑問があります。実際、携帯電話各社はスマートフォンの値引きが規制されたことを受け、今度はインターネットサービスとのセット提供による値引きに力を入れるようになってきました。そうしたことから、現在進められている有識者会議の最終報告書の取りまとめに関する議論の中でも、通信料と何らかのサービスとのセットによる割引には強く警戒している様子が見られます。

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▲NTTドコモが「ギガホ」の契約者に「Amazonプライム」を1年間無料で提供するなど、端末値引き規制後は通信料金とネットサービスとのセットによる割引競争が加速しつつある

ですが、行政側が通信料金の値引きを要求したことで、携帯電話会社も既存事業での売上を伸ばすのが難しくなっているのも事実。にもかかわらず、もしそうしたセット割引に規制がなされ顧客基盤を活用したビジネスができないとなれば、上場企業として一体何で売上を伸ばし、成長すればいいのか?という疑問も浮かんできます。

しかも行政側が、携帯電話料金競争の火付け役として大きな期待をかけていた新規参入の楽天モバイルは楽天傘下の企業です。そして楽天のビジネスの中核はポイントを軸とした「楽天経済圏」、つまり自社サービスを多く利用するほどお得になる仕組みを提供することで、顧客を囲い込み1人当たりの売上を伸ばすことにあります。

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▲楽天のビジネスの根幹となる「楽天経済圏」は、自社サービスを複合的に利用してもらうことでポイント還元率を高めるなど、お得さを高めることで顧客1人当たりの売上を高める仕組みだ

もし通信料金とサービスのセットによる値引きなどが規制されるとなれば、楽天にとって携帯電話事業は美味しいものではなくなりますし、基地局整備の遅れで楽天モバイルの立ち上げが決してうまくいっていない現状、早々に撤退する可能性もないとは言い切れないでしょう。そうなれば再び携帯電話業界は大手3社の寡占に逆戻りし、競争のない無風状態となってしまいます。

それだけに今後、競争加速のため行政側がとるべきは、市場の理想像を追求するあまり「規制ありき」となってしまっている現在の考え方から、いち早く脱却すること。その上で、楽天モバイルや有力なMVNOなどをしっかり育てるための環境整備を進めることに尽きるのではないでしょうか。

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December 27, 2019 at 11:59AM
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